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漢方薬解説-20 その他の参耆剤

十全大補湯と補中益気湯が参耆剤の双璧であると紹介しました。

胃腸の機能を回復させることは “気” の増幅に繋がるので、漢方

医学ではとても重要な位置づけとなっており、この2剤以外

にも保険で使用できるものが数種あります。若干マニアックに

なるので、人参と黄耆の配合量だけ記載します。

 

・清暑益気湯(セイショエッキトウ 136番)

…人参3.5g+黄耆3g

・加味帰脾湯(カミキヒトウ 137番)

…人参3g+黄耆3g

・清心蓮子飲(セイシンレンシイン 111番)

…人参3g+黄耆2g

・半夏白朮天麻湯(ハンゲビャクジュツテンマトウ 37番)

…人参1.5g+黄耆1.5g

 

補中益気湯が人参4g+黄耆4g、十全大補湯が人参3g+黄耆3g

ですから上2剤は参耆剤として引けを取らない効能を持つこと

なりますね。136番は夏バテに、137番は不眠に、なんて

紹介されますが、胃腸機能低下が条件です。下2剤はそれぞれ

頻尿、頭痛に使用されます。参耆剤としての効果は落ちますが、

配合意図を知っておくべきです。

 

我々が使用する保険漢方エキス剤は便利である反面「不要な

生薬を抜けない」という弱点があります。本来漢方は必要生薬

を足していく方式ですが、既にできてしまったエキス剤からは

引くことができません。上記4剤も人参+黄耆以外の生薬が

不要、もしくは邪魔になることもあるので、使いやすくはない

のです。

 

よし、じゃあ作っちゃお!ってことで、極力不要な生薬を含ま

ない合方なんてのを紹介しましょう。

 

・六君子湯(リックンシトウ 43番)

構成:人参+茯苓+半夏+陳皮+蒼朮+大棗+甘草+生姜

・防已黄耆湯(ボウイオウギトウ 20番)

構成:黄耆+防已+蒼朮+大棗+甘草+生姜

 

43番は以前紹介しました。人参は4gです。20番は黄耆が

5g配合されている上に、蒼朮以下は43番と共通なので、合方

しても実質生薬が2つ追加になるだけです。それでいて参耆剤

としては最強クラスになるのです。消化器系に特化した合方と

言えますね。イエーイ。

 

これはほんの1例ですが、生薬構成を知るとこういう芸当も

普通にできるようになります。面白いですね。面白いですね?!

強要。(笑)

2020年7月27日 月曜日

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漢方薬解説-19 補中益気湯

今回は、前回紹介した十全大補湯(48番)と双璧をなす

参耆(人参+黄耆)剤である補中益気湯です。こちらも非常に

有名な漢方薬ですが、48番と双璧をなすからなのか、

今ひとつ使い分けがしっかりなされていない側面もあります。

構成を見てみましょう。

 

・補中益気湯(ホチュウエッキトウ 41番)

構成:人参4g+蒼朮4g+甘草1.5g+大棗2g+生姜0.5g

+柴胡2g+当帰3g+陳皮2g+黄耆4g+升麻1g

 

上段はほぼ四君子湯(75番)ですから、胃腸を助ける薬で

あることは間違いありません。48番と共通する部分ですね。

48番ではこれに四物湯と桂皮、黄耆が追加された構成に

なっていましたが、41番では下段が随分違います。ここが

分かれば使い分けも容易になります。

 

ここでポイントになるのが柴胡(サイコ)と升麻(ショウマ)です。

柴胡は抗炎症作用と理気作用がありました。そして升麻は

様々なものを “持ち上げる” 作用があります。と言うことは

41番の精確な適応は消化吸収能力が落ち、それに伴って

炎症がくすぶる、さらに “落ちている” 病態、となります。

具体的に言うと胃腸風邪などの感染症で食欲が戻らないとか、

食欲がなくて気分が落ち込む、なんて場合が良さそうです。

 

胃下垂や膀胱下垂、子宮下垂などの解剖学的病態にも使用

されますが、これは升麻が配合されるからで、やや拡大解釈

かも知れません。柴胡とのタッグを考えると、むしろ精神的

な落ち込みの方が効果が期待できるでしょう。ちなみに

参耆剤としては48番より高用量なので、胃腸症状に対する

効果は48番より優れています。

 

さて、41番を理解する上でもう一つ大事な視点があります。

それは「何が配合されていないか」です。これまでは構成生薬

そのものに着目して効能を理解するよう努めてきましたが、

配合されていないことの意味、というのもあるんですね。

 

41番で敢えて配合されていない生薬、それは桂皮+茯苓です。

これまで何度も登場した組合せですね。「気を降ろす」効能

がありました。これが升麻の効能とバッティングしてしまう

ため41番には入っていないわけです。と言うことは、41番

はめまいや嘔気には向いていない、とも解釈できます。

胃腸系の薬ではありますが、嘔気は適応外なんですね。

 

いかがでしょう?最後は少し難易度が高かったかも知れ

ませんが、処方の理解は構成生薬だけでなく、構成外生薬

からも攻める方が良いぜ、という好例です。頻用処方ほど、

より処方の意図を理解しておくと都合が良いです。(^ ^)

2020年7月13日 月曜日

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漢方薬解説-18 十全大補湯

今回も大変メジャーな処方の紹介です。最近では抗癌剤の

副作用に対して使用されたりとか、西洋医学の現場でも

積極使用されている漢方薬です。

 

・十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ 48番)

構成:人参3g+蒼朮3g+茯苓3g+甘草1.5g

+当帰3g+川芎3g+芍薬3g+地黄3g

+桂皮3g+黄耆3g

 

変なところで改行されている時は…お分かりですね?(^ ^)

そう、「十全」と言うだけあって10種の生薬から構成

されていますが、よく見ると実はこれまで紹介してきた

処方を合わせたものなんです。上段は四君子湯(75番)、

中段は四物湯(71番)です。75番は消化吸収を助け

元気を出させる薬で、71番は血を作り、血流改善に働く

薬でした。

 

つまり48番は消化器系と循環器系を守備範囲とする薬、

ということになります。食欲低下や疲れ、皮膚の乾燥、

冷えなどが適応になります。ちなみに中段までの構成を

八珍湯(ハッチントウ)と言います。保険薬にはないですが。

で、さらに下段の2つの生薬が追加されているので48番

は八珍湯加桂皮黄耆とも表現できますね。

 

その桂皮(ケイヒ)と黄耆(オウギ)ですが、それぞれは加温

作用と水分調節作用を有しますが、人参+黄耆はとても

相性が良く、人参の効果を高めます。この2つの生薬が

配合されている処方を一文字ずつ取って “参耆(ジンギ)剤”

と呼んだりします。48番は参耆剤の代表選手です。

 

桂皮が配合されることにより、苓桂朮甘湯(39番)が

内包されます。芍薬甘草湯(68番)もありますね。また、

完全ではないですが当帰芍薬散(23番)も入っています

ので、48番はめまいや筋肉の張り、むくみにも効果が

あります。一応地黄が配合されているので、胃腸に配慮は

必要です。

 

過不足なく広く効果範囲を得る美しい配合だと思いますが、

決して抗癌作用があるわけではないので、癌に48番!

とか、48番で免疫アップ!というのは拡大解釈です。

 

ちなみに十全大補湯の読み方ですが、“ダイホ” ではなく

“タイホ” ですのでご注意を。知らずに誤読するとちょいと

恥ずかしいよ。

2020年7月2日 木曜日

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漢方薬解説-17 六君子湯

人参湯、四君子湯と来れば次はこの処方、六君子湯です。こちら

の方がはるかにメジャーですね。その構成を見てみましょう。

 

・六君子湯(リックンシトウ 43番)

構成:人参4g+蒼朮4g+茯苓4g+甘草1g+大棗2g+生姜0.5g

+陳皮2g+半夏4g

 

上の段が四君子湯ですので、六君子湯は四君子湯に陳皮(チンピ)

と半夏(ハンゲ)を追加した処方となります。四君子湯加陳皮半夏

とネーミングしなかったのは陳皮も半夏も君子並みの素敵な生薬

だったんでしょう。知らんけど。この手法は抑肝散でも見られ

ましたね。陳皮、半夏ともに嘔気嘔吐を抑える生薬ですので、

これらを加えて胃腸機能を回復させるという方法は常套だった

のかも知れません。

 

四君子湯はそもそも胃腸の薬でしたから43番はさらにそれを

強化していることになります。陳皮と半夏は痰がらみの咳にも

効果があるので、消化器系と呼吸器系の症状が併存する場合は

尚よい選択になります。注意点は半夏に乾燥作用があること。

副作用がなく効果が高いのが君子たる所以でしたが、半夏だけは

注意が必要です。口渇や舌の乾燥がある場合、基本的には適応外

です。こんな処方があります。

 

・小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ 21番)

構成:半夏6g+生姜1.5g+茯苓5g

 

妊婦のつわりによく用いられてきた処方ですが、よく見ると3種

の生薬全て43番に入っているものです。用量はこちらの方が多い

ので、嘔気嘔吐に特化した薬と言えるでしょう。また、こんな処方

もあります。

 

・二陳湯(ニチントウ 81番)

構成:半夏5g+生姜1g+茯苓5g+陳皮4g+甘草1g

 

21番に陳皮と甘草を追加していますが、これまた5種全てが

43番に配合されています。当然これも嘔気嘔吐の薬です。じゃあ

21番も81番もいらなくね?と思われがちですが、まあ僕もそう

思います。(オイ)言い換えれば43番は21番も81番も内包した

人参を主薬とした処方、となり、重宝される理由が分かります。

疲れて食欲がなく悪心があったり咳が続く、と来れば43番が

第1選択でしょう。もちろん口渇には注意です。

 

余談ですが、43番は海外でも臨床研究されている国際的にも

認知度の高い漢方薬です。そこでも高い安全性が報告されている

ので、安心して使用できます。さらに余談ですが、以前43番の

プロモーションで「りっくん」なるゆるキャラ(?)が作られ

ました。よく見ると顔が胃袋の形をしているというキモ…シュール

な造形で一部のニッチな界隈で人気を博したとかしないとか…。

2020年6月22日 月曜日

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漢方薬解説-16 人参湯

さて柴胡剤が一段落付いたところで、次の重要生薬関連処方を

紹介いたします。柴胡剤(9番、10番、12番)にも配合

されていた人参(ニンジン)です。人参はみぞおちの痞え感や嘔気

に対して効果があるので守備範囲がかぶる柴胡と併用されたの

ですが、今度は人参を主薬とした処方群です。あ、ちなみに

キャロットとは別ものです。念のため。

 

・人参湯(ニンジントウ 32番)

構成:人参3g+蒼朮3g+甘草3g+乾姜3g

 

4種の生薬のみで構成されるシンプルな処方です。4種均等に

配合されていますが、主役は人参+蒼朮です。蒼朮は17番など

で登場した水分代謝改善剤であり、鎮痛効果もあり、と各方面で

重用される生薬です。人参とタッグを組むことで悪心嘔気を

抑える効果を高めます。このタッグはとても多くの処方に組み

込まれています。

 

人参湯で着目すべきは乾姜(カンキョウ)です。消化器系の薬、と

いうより温める作用を目的として配合されることが多いです。

なので、32番は悪心嘔気、胃部の痞え、そして冷えが対象

となる処方です。西洋薬にはない効能なので、とても重宝します。

そして、似たような構成をしているのが

 

・四君子湯(シクンシトウ 75番)

構成:人参4g+蒼朮4g+茯苓4g+甘草1g+大棗1g+生姜1g

 

です。“単独で使用されることは少ない”などと評されることが

多い不遇の(笑)処方ですが、32番より人参+蒼朮の用量は

多いですし、これまた嘔気やめまい、動悸に効果がある茯苓

まで配合されていますから、十分使える薬です。

 

名称にある「君子」とはその名の通り「偉大な人」という

意味で、四君子湯とは「偉大な生薬4つを配合した薬」という

ことです。前半4つの人参、蒼朮、茯苓、甘草を指しています。

大棗と生姜がオマケみたいになってますが、大棗はナツメで

生姜はショウガですから、比較的入手しやすかったための

軽めの扱いのようです。この視点で言うと32番は「三君子湯」

でも良さそうですね。

 

効能が似ていてほとんどの生薬が共通しますから、この2薬

を併用するのはもちろんOKです。君子と言われる所以の一つ

として副作用がほとんど無い、という点が挙げられるので

安全面でもOKです。

 

実は人参は原価が高騰していて、処方の製造コストが上がって

いますが、それに見合った保険薬価上昇が伴わないのでメーカー

側の涙ぐましい努力が裏にあるんです。ありがたく感じつつ

服用しましょう。(^ ^)

2020年6月11日 木曜日

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