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漢方薬解説-25 麻子仁丸

今回も下剤シリーズです。漢方界では便秘を嫌う、というのは

前回お伝えしましたが、下剤を使用して便通があるのは当たり

前で、その場合、使用しないとまた便秘に戻る、ということ

はよくあります。なるべく下剤成分以外で便秘を解消して

いこう、というのはこれまた漢方ならではの発想です。

 

・麻子仁丸(マシニンガン 126番)

構成:麻子仁5g+大黄4g+枳実2g+杏仁2g+厚朴2g+芍薬2g

 

大黄を4g使用していますが芒硝は入っていません。その代わり

麻子仁(マシニン)、杏仁(キョウニン)といった「潤す」作用のある

生薬を配合しているのが特徴です。乾燥傾向になると便は硬く

なるので、これらの生薬が有効な場面が結構あるのです。生理的

に脱水となる高齢者では乾燥による便秘多いので、高齢者向き

の下剤、なんて紹介されますが必ずしもそうではありません。

枳実(キジツ)や芍薬は下腹部の張りを取るので便秘に好都合

です。

 

さらに漢方らしいのが、

 

・潤腸湯(ジュンチョウトウ 51番)

構成:麻子仁2g+大黄2g+枳実2g+杏仁2g+厚朴2g

+地黄6g+当帰3g+黄芩2g+桃仁2g+甘草1.5g

 

です。10種の生薬構成ですが、上段5種はほぼ126番

です。大黄2gですから、さらに下剤成分は少ないですね。

下段は潤す生薬と血流改善生薬なので、乾燥かつ血の巡りの

悪い状態=血虚の方向けの薬というのが分かります。これも

決して高齢者向けというわけではありません。むしろ血虚

になりやすい若い女性に使用する機会が多いです。

 

ちなみに黄芩(オウゴン)って冷やす生薬じゃね?血虚には

不向きじゃね?と思われた方はスバラシイ。確かに通常

血虚がある場合には冷えを訴えることが多いですが、乾燥

傾向=水分が少ない状態になると適切に身体を冷ますこと

ができなくなり、熱がこもることがあります。これを虚熱

といいますが、51番の黄芩はこの虚熱対応のため配合

されています。また黄芩は乾燥作用もあるのでこれも疑問に

感じるかも知れませんが、他の生薬がほとんど潤すもの

ばかりなので、そのカウンターとして使用されているとも

捉えられます。

 

ここまで理解できると、その漢方薬にマッチする人が

想像できるので適切に選択できるようになるわけです。

2020年9月24日 木曜日

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漢方薬解説-24 桃核承気湯

漢方医学は “流れ” を重視する医学なので “不通” 状態を嫌い

ます。“不通” って何じゃい?!と思われるかも知れませんが、

日常的に見られます。それが便秘です。

 

・桃核承気湯(トウカクジョウキトウ 61番)

構成:大黄3g+芒硝0.9g+甘草1.5g+桃仁5g+桂皮4g

 

便通が2〜3日に1回くらいだとあまり便秘と捉えない方

もいると思いますが、不通嫌いの漢方界では立派な便秘に

カウントされます。ゆえに下剤系の漢方薬は意外と多く存在

します。特に大黄(ダイオウ)と芒硝(ボウショウ)のコンビは

頻用される組み合わせです。

 

中でも61番が最もメジャーでしょう。甘草と桃仁(トウニン)

は共に潤す効能を持つので、便を軟らかくすることに寄与

します。また不通の原因は「気」の巡りの悪さなので、気を

降ろす効能を持つ桂皮を配合することは合理的です。

 

桃仁が血の巡りを改善する効能も持つので、桂皮と合わせて

更年期のイライラやほてりに良い、とされますが当然便秘が

ある人向けです。便秘が無いのに61番を飲めば下痢します。

これは副作用ではなく診断ミス。ただ、前述のように自分

では便秘と思っていないケースもあるので、便通についての

問診が重要になります。

 

61番以外にも「承気湯」という名が付く薬があります。

61番の前半3つの生薬だけで構成される調胃承気湯

(チョウイジョウキトウ 74番)、大黄+芒硝+厚朴+枳実で構成

される大承気湯(ダイジョウキトウ 133番)です。大黄+芒硝

が共通しているので、承気湯=大黄+芒硝と思われがちです

が、ちょっと違います。「気」は下腹部で滞ることが多く、

それを改善することを「承気」と表現してるので、必ずしも

大黄+芒硝である必要はありません。例えば、保険薬には

ありませんが、小承気湯(ショウジョウキトウ)は芒硝を含みま

せん。つまり大黄こそが「承気」のキモってことですね。

 

あくまで「気」の巡行が目的であって、便通を良くすること

だけに拘泥しているわけではない、というのが意外と重要な

ポイントです。そういう意味で「承気湯」という命名は気が

利いていると思います。承気だけに。漢方ジョーク。

2020年9月10日 木曜日

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漢方薬解説-23 黄連解毒湯

漢方薬は身体を温める効果を持つものが多く、これが西洋薬と

比較した時の大きな違いの一つでしょう。しかし、逆に冷やさ

なければいけない病態も、もちろん存在します。

 

・黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ 15番)

構成:黄連2g+黄芩3g+黄柏1.5g+山梔子2g

 

生薬4種のみのシンプルな構成ですが、これら全てが「冷やす」

効能を持ちます。正確には内部の熱(裏熱と言います)をさばく

のが得意で、即ち胃腸炎が最も良い適応ですが、皮膚の熱や

頭部の熱などにも効果があります。

 

よく応用されるのが、ほてりを伴うイライラや、熱感のある

鼻出血です。更年期症候群で頻用される加味逍遙散(24番)

に山梔子(サンシシ)が配合されていますが、これはほてりと

イライラを取る目的、ということですね。

 

4種とも同じような効能ですが、黄連(オウレン)と黄芩(オウゴン)

は特に併用されることが多く、この2つを主役にした薬を

芩連(ゴンレン)剤と呼んだりします。探すと結構ありますよ。

 

ここで注意すべきは15番はひたすら冷やす薬なので、副作用

として冷えてしまう可能性があります。もちろん元々冷え症の

方には使いづらい薬です。さらに冷やすと同時に「乾かす」作用

まであるため、例えば脱水症でほてりがある場合には禁忌です。

 

そこで15番の弱点を補う目的で四物湯(シモツトウ 71番)と

合体させた薬があります。それが温清飲(ウンセイイン 57番)です。

71番は血流を改善し、組織を修復させる作用がありますが、

配合される地黄(ジオウ)が潤す効能を持つので15番の副作用

を軽減できるわけです。

 

例えばアトピー性皮膚炎で、局所はかゆみも赤みもひどいけど、

冷え症であったり、皮膚がガサガサで乾燥傾向だったりした場合

15番は使いづらくなります。しかし57番なら15番の良い

ところを残しつつ組織も修復し、かつ副作用も抑えられるので、

意外と使用場面が多いです。この57番にさらに生薬を追加した

荊芥連翹湯(ケイガイレンギョウトウ 50番)、柴胡清肝湯(サイコセイカントウ

80番)なんて薬もあります。

 

とても有用そうな薬ですが、難点が一つ。芩連剤はチョー苦い

んです。(^ ^;)苦味そのものが熱をさます効果があるので

当たり前と言えば当たり前なんですが、何も言わずに出すと

嫌われて来院しなくなることもあるので(笑)、処方する際

には「こいつぁ苦いぜ!」と言うようにしています。

2020年8月31日 月曜日

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漢方薬解説-22 大建中湯

漢方医学では体幹部を上・中・下と3つに区切り、それぞれ

上焦、中焦、下焦、と表現します。中焦はだいたい横隔膜から

ヘソくらいまでのことで、機能的には消化吸収能を指します。

なので、処方名に「中」という漢字があれば胃腸に効く薬なの

かな、とアタリを付けることができます。補中益気湯とかね。

 

・大建中湯(ダイケンチュウトウ 100番)

構成:人参3g+乾姜5g+山椒2g

 

とてもシンプルな構成ですね。「中を大きく建て直す」という

名称からも分かる通り、胃腸機能改善に特化しています。構成

生薬すべてが温める効能を持つので、冷えがあることが使用の

前提となります。冷えて便秘する、とか冷えて腹痛、とか。

 

実はこの漢方薬、外科領域で頻用されています。特に開腹術後

の腸管麻痺に。開腹術後は腸の動きが低下するので、いきなり

食事を再開できないのですが、100番を使用すると復帰が

早いんですね。この理由はまさに開腹術では腸が冷えるから、

です。100番で強力に腸を温めることで腸管麻痺を改善させて

いるわけです。山椒(サンショウ)のせいで少しピリッとした味が

しますが、副作用もなく速効性がある使いやすい漢方薬です。

 

小柴胡湯と大柴胡湯があったように、こんな処方もあります。

 

・小建中湯(ショウケンチュウトウ 99番)

構成:桂皮4g+芍薬6g+甘草2g+大棗4g+生姜1g+膠飴10g

 

名前はソックリでも構成は全く違いますね。そしてよく見ると

この構成は桂枝湯(45番)です。桂枝湯の芍薬を増量した

のが桂枝加芍薬湯(60番)で、さらに膠飴(コウイ)を足した

のがこの99番、という見方ができます。膠飴はその名の通り

飴(あめ)で味は甘く、気を静める作用があります。

 

飲み易く、気を静めるので昔から小児の夜泣きなどに頻用

されてきましたが、あくまで「建中湯」なので消化器系に

作用するのが本態です。膠飴以外は60番ですから、特に

腹痛によく効きます。

 

さて、100番と99番を合体させると「中建中湯」という

名前になります。冗談みたいなホントの話。(笑)保険薬

にはないですが使う場面は結構あったりします。ちなみに

以前紹介した人参湯(32番)は別名、理中湯(リチュウトウ)と

言います。お腹を整える、という意味でしょうか。お腹を

建てたり整えたり、と漢方は「中」をとても重要視して

いますね。

2020年8月20日 木曜日

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漢方薬解説-21 半夏厚朴湯

最近少しマニアック傾向があったので、今回はシンプルかつメジャー

な処方の紹介といたしましょう。ノドや胸のつかえ感に使用される

半夏厚朴湯です。

 

・半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ 16番)

構成:半夏6g+生姜1g+茯苓5g+厚朴3g+蘇葉2g

 

さて、この生薬構成を「見たことあるな?」と思った方がいたら

嬉しくて失禁してしまいそうですが(笑)、六君子湯の紹介の時

に登場した小半夏加茯苓湯(21番)が含まれています。5種の

生薬のうち前3種が21番です。なので16番は小半夏加茯苓湯

加厚朴蘇葉とも言い換えられます。誰も言い換えんけど。

 

16番はノドや胸のつかえ感によいとされますが、21番は嘔気や

めまい動悸の薬ですから、追加された厚朴(コウボク)と蘇葉(ソヨウ)

がその効果を持つことになります。双方とも「散ずる」という

特性を持つため、“気” の滞りを取る効能があって、結果として

ノドや胸のつかえ感が改善する、という仕組みです。

 

もちろんベースは21番ですから嘔気やめまいがあって、さらに

つかえ感がある場合が最適となります。西洋医学ではノドのつまり

をヒステリー球と言って精神的過緊張症状と捉えるので、16番を

抗不安薬のように使用する向きがありますが、拡大解釈は無効例

を増やすだけなので注意が必要です。ちなみに中国では胸のつかえ

を梅核気(ばいかくき)とか咽中炙臠(いんちゅうしゃれん)と

表現していました。前者は梅の種がノドにあるように感じること、

後者はあぶった肉がノドに引っかかることで、まあ昔の中国人は

何と大袈裟なことかと感じますね。

 

胸の痞えや違和感というと小柴胡湯(9番)も同じような適応があり

ました。「そうだったよね!」って方がいたら嬉しくて失…(略)

実は9番と16番を合方した薬が存在します。その名も柴朴湯

(サイボクトウ 96番)。それぞれの処方名を一文字取って組み合わせた

ネーミングです。もともと9番には半夏と生姜が含まれるので、

小柴胡湯加茯苓厚朴蘇葉と言い換えることもできます。誰も(略)

それぞれのイイトコ取りをした、というより似たような目標が

あるので9番のパワーアップ版、と捉えた方が分かり易いかも

知れないですね。

 

9番も16番もメジャーな処方なので必要なら合方すればいいと

わざわざ96番を在庫することは少ないですが、合方した場合は

96番単独に比べ、半夏を大量に摂取することになるので口渇

などの副作用により配慮が必要です。

2020年8月6日 木曜日

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