院長室

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漢方薬解説-14 柴胡加竜骨牡蛎湯

予告通り今回も柴胡剤の中から紹介します。柴胡剤は数種類

ありややこしいですが、基本的には小柴胡湯からの派生です。

小柴胡湯の効能を拡げるか、弱点を補完するか、です。今回

紹介する処方は前者です。

 

・柴胡加竜骨牡蛎湯(サイコカリュウコツボレイトウ 12番)

構成:柴胡5g+黄芩2.5g+半夏4g+人参2.5g

+大棗2.5g+生姜1g

+桂皮3g+茯苓3g+竜骨2.5g+牡蛎2.5g

 

処方名が長く、構成生薬も比較的多いのでギョッとするかも

知れませんが命名は「小柴胡湯に竜骨と牡蛎を加えたよ」と

いう意味ですので恐れることはありません。構成の上、中段

が小柴胡湯、下段がこの処方で追加された生薬です。

 

加味された竜骨(リュウコツ)も牡蛎(ボレイ)も「気を緩める」

のが得意な生薬です。注目して頂きたいのはさらに「桂皮+

茯苓」も追加されていること。これ、何度も出てきた組合せ

ですよね。…よね?(笑)桂皮+茯苓は「気を降ろす」という

効能を持っていました。苓桂朮甘湯五苓散桂枝茯苓丸

に配合されていましたね。

 

竜骨+牡蛎で気を緩めつつ桂皮+茯苓で気を降ろすわけです

から、上半身、特に頭頸部の症状がターゲットなるわけです。

具体的にはイライラ、不眠、頭痛、肩コリ、眼の疲れなどです。

小柴胡湯が胸部周辺の症状を得意としていましたから、守備

範囲が拡がる感じですね。上記のような症状があると向精神薬

が処方されがちですが、その前にこの処方を試したいところ

です。

 

さて、紛らわしい名称の薬があります。

 

・桂枝加竜骨牡蛎湯(ケイシカリュウコツボレイトウ 26番)

構成:桂皮4g+芍薬4g+大棗4g+甘草2g+生姜1.5g

+竜骨3g+牡蛎3g

 

こちらは桂枝湯(ケイシトウ 45番)に竜骨と牡蛎を加えた薬

ですので、名前は似ていますが全然別ものとなります。竜骨と

牡蛎をわざわざ追加しているので、もちろん過敏緊張気味に

なっている人に適応があるのは間違いありません。12番

との違いは何と言っても柴胡+黄芩を含まないことです。

 

柴胡+黄芩は抗炎症作用があるので言ってみれば「冷ます」

薬です。これは冷え症の人には使いにくいですね。26番は

桂皮が配合されているので温める作用を有しますし、桂枝湯は

胃腸を整える薬でもあります。結果、竜骨+牡蛎を使いたい

過敏緊張気味の人で、冷えと胃腸虚弱がある場合が適応と

なるわけです。12番とは逆ですね。

 

ただ、だからと言って12番を “実証向け” 、26番を “虚証

向け” としてはいけません。あくまで症状と構成生薬とを

照らし合わせて選択すべきです。しかも、なんと次回もまた

柴胡剤チョイスです。

2020年5月21日 木曜日

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なぜHbA1cを測定しないか

健康教室の常連さんは耳タコの話かと思いますが、ウチでは、

と言うか栄養療法では糖尿病の診断に用いられるHbA1cを測定

することはまずありません。意外と疑問視される、もしくは

HbA1c正常で安心している方が結構いるので改めて解説します。

 

健診などでHbA1cが基準範囲内だと、糖代謝は「A」判定に

なります。薬剤の効果判定なんかもHbA1cで行うことが多い

ですね。HbA1cは糖と結合したHb(ヘモグロビン)の割合です。

なのでHbの単位はgですがHbA1cは%です。血糖値が高い

時間が長ければ長いほど、糖とHbの結合率は上がるのでHbA1c

も上昇します。これをもって糖尿病の指標とされています。

 

Hbはタンパク質の一種ですが、タンパク質と糖が結合すること

を「糖化」と言います。HbA1cはHbの糖化率を見ているわけ

ですが、Hb以外のタンパク質にも糖化は起き、タンパク質に

よって結合のしやすさが違います。実はHbよりもアルブミンと

いうタンパク質の方が糖と結合しやすく、結合したものを

グリコアルブミンと言い、血液検査で測定することができます。

 

つまり、HbA1cが基準範囲内であってもグリコアルブミンは

異常値、ということが起き得るわけですね。グリコアルブミン

の方が高血糖に対して敏感ということです。保険の都合上、

HbA1cとグリコアルブミンを同時に検査することができない

ため、我々はグリコアルブミンを糖尿の指標とし、HbA1c

は用いないわけです。

 

またHbA1cもグリコアルブミンも高血糖を反映する検査

ですから持続する高血糖を見つけることは得意ですが、血糖の

乱高下は逆に見落としてしまいます。低血糖の時間があれば

糖化は進まないため、血糖乱高下では“プラマイゼロ”でHbA1c

もグリコアルブミンも基準範囲になってしまうことがあるから

です。血糖乱高下は諸悪の根源(笑)ですから見逃したくない、

なので1,5-AGという項目も検査しています。ただこれも保険

では同時算定不可なので同時に行う場合、実はクリニック負担

だったりします。(^ ^;)

 

一度糖化が起きると、そのタンパク質が分解されるまで糖化は

解除されません。しかも糖化したタンパク質はその機能を失い

ます。HbA1cが高いということはHb機能が低下するという

ことなので貧血症状が出ます。さらにさらに糖化タンパクは

最終的に有害な物質を出すので糖化の度合いを知ること自体は

とても重要です。ただHbA1cだけでは若干役不足、という

ことですね。

2020年5月18日 月曜日

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在宅ワークの影響

新型コロナウイルスの影響で在宅ワークとなり、眼精疲労を感じる方が増えているようです。

パソコン作業やスマホを見る時間の増加が、少なからず影響しています。

 

東洋医学的に考えてみます。

まずは「陰と陽」の視点から。

陰と陽を分類すると
陽…熱、火、上、動
陰…寒、水、下、静
といった感じです。

 

パソコンやスマホの画面からの光刺激は、神経をたかぶらせます。神経がたかぶる=興奮状態は、動的なので「陽」と考えられます。

長時間この状態が続くと、身体のバランスは陽に傾いていきます。陽に傾くと、反対の「陰」は減ります。

陰には水が分類されていますね?

陰が減るということは潤す働きが減る、ということでもあります。

そのため、「目が渇く」という症状が出てきます。

 

次は内臓の視点から。

「五臓六腑にしみわたる」の五臓六腑が内臓で、とくに「五臓-肝・心・脾・肺・腎」が重要と考えます。

目への光刺激は、五臓の心(しん)に負担をかけます。

心は「陽中の陽」と表現されるように、陽の要素がとくに強い内臓で、負担がかかるとさらに陽が強くなる性質があります。

パソコンやスマホの光刺激→心に負担がかかる→バランスが陽に傾く

となります。

目が血走っている状態は、心に負担がかかっていることを表しています。

 

また、パソコン作業は目の焦点がずっとモニターに合っています。

これは目の筋肉が常に固定された状態。

身体でもずっと同じ姿勢を取り続けるとしんどいですよね。目の筋肉がこの状態になっているんです。

そして、筋肉と関係が深い五臓は、「肝」です。

目の「筋肉」に負担をかけることで、肝に負担がかかり、他の筋肉にも影響が及びます。

その結果、肩こりや腰痛、背中の痛み、といった筋肉の問題が出てくるんですね。

 

以上をまとめると、

パソコン作業やスマホを見る時間の増加は、身体のバランスを「陽」に傾け、

内臓では、「心や肝」に負担をかけます。

 

対策としては、

・1時間に1回は席を立ち、身体を動かす

目や頭を酷使すると、気が上っていきます。適度に身体を動かすことで、上に上った気を全体にめぐらすことができます。

気が上に上ったままだと、めまいや頭痛を引き起こすこともあります。

・目の焦点距離を変える

極端に近くを見たり遠くを見たりして、目の焦点距離を変えることで目の筋肉をストレッチすることができます。

・夜は目を休める

夜は陰の時間帯。夜はパソコン作業やスマホはできるだけ減らし、遅くても日付が変わる前には就寝しましょう。

 

もちろん、鍼治療で身体を整えるのもおすすめです(^_-)-☆

2020年5月16日 土曜日

カテゴリー はりの部屋

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デトックスの季節?!

昼間は随分と気温が上がり、そろそろ梅雨の足音も近づいて

来ています。一般的に汗をかく季節は老廃物を排出しやすい、

つまりデトックスに向くと言われますが、その真偽は?

 

栄養療法でもデトックスという単語は使います。そして発汗に

よってそれを成し遂げるということも間違いではありませんし、

確かにこの季節は向いていると思います。ただ注意点が2つ

あります。

 

まずはデトックスの経路。身体に不要なものを排泄するには

当然その排泄経路が必要ですが、その最大の経路は排便です。

夏だから発汗しやすい、運動して汗をかいてデトックス!は

間違っていませんがデトックスの本流ではないのです。まず

は腸内環境を整えて便通を良くするのがデトックスの一歩目

です。

 

そして2つ目。発汗はデトックス経路の一つですが、不要な

ものだけでなく必要なものまで排泄されてしまうという不利

な点もあるということです。これからの季節、熱中症や脱水

のニュースが増えると思いますが、これに大きく関わる問題

ですね。屋外での仕事や岩盤浴、ホットヨガ等の発汗過多に

なりやすい場面では、必ず水分とミネラルの補給をセットに

せねばなりません。

 

デトックスを考える時、この腸内環境と水分ミネラルの補給

を並行して考えることがとても重要です。さらに、不要なもの

を排泄しやすい形態にしてくれるのは肝臓ですので、肝臓が

疲れていてはそもそもデトックスも不調になります。飲酒や

薬剤の過多は肝臓を疲れさせますし、食の乱れもまた肝臓に

不要な負担をかけます。

 

この季節がデトックスに向いているのは確かですが、それを

成功させるためにはこの時期だけ頑張ってもダメなんですねぇ。

ここでも腸管や肝臓が基本になるのです。

2020年5月14日 木曜日

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漢方薬解説-13 小柴胡湯

前回の抑肝散解説で柴胡(サイコ)という生薬が登場しました。

柴胡+釣藤鈎は緊張をほぐす作用がありましたが、柴胡には

もう一つ、重要な効能があります。それを体現するのが今回

紹介する処方です。

 

・小柴胡湯(ショウサイコトウ 9番)

構成:柴胡7g+黄芩3g+半夏5g+人参3g

+大棗3g+甘草2g+生姜1g

 

また変な改行の仕方してますが、下段は消化吸収を助ける常套

配合で、これまで紹介した方剤では葛根湯なんかにも同様に配置

されていて、麻黄などの副作用があり得る生薬を用いる場合や、

ある程度長期に服用することが想定される方剤に組み込まれます。

 

小柴胡湯のメインは上段の柴胡+黄芩(オウゴン)で、この組合せに

抗炎症作用があり、これが柴胡のもう一つの側面です。特に気管

や消化管、肝臓の炎症が得意なので、気管支炎や胃腸炎、肝炎

など、とても応用範囲が広い薬です。この組合せをメインに持つ

方剤は数多く、一般に柴胡剤というグループとして紹介されます。

 

小柴胡湯は柴胡剤の中でも生薬数が少なく、応用範囲も広いこと

から過去に濫用され、結果多くの副作用報告がありました。その

せいで今でも危険な漢方薬という認識がありますが、濫用すれば

どんな薬だって副作用はありますから、正しく使用すれば別段

危険ではありません。小柴胡湯のみならず、柴胡剤で注意する点は

柴胡には「乾かす」作用があることです。抗炎症という魅力的な

効果に目を奪われ、乾燥に留意しないと副作用のしっぺ返しを

喰らうことになるんですね。例えば既に脱水傾向がある方には

そもそも柴胡剤の適応はありません。

 

「小」があれば「大」もあるわけで、柴胡剤のグループには

 

・大柴胡湯(ダイサイコトウ 8番)

構成:柴胡6g+黄芩3g+半夏4g+芍薬3g

+枳実2g+大黄1g+大棗3g+生姜1g

 

なんて薬もあります。漢方薬の名称上の「大・小」は身体への

影響力により使い分けられますので、この8番の方が9番よりも

影響が大きいということになりますが、それは大黄(ダイオウ)が

配合されていることに起因します。大黄は下剤成分を含むので

少量であっても身体に変化を来しやすいということでしょう。

 

芍薬+枳実(キジツ)+大黄とすることで腹痛や便秘に効能を発揮

しますから、9番の守備範囲を広げた薬、と見る事もできます。

敢えて8番から大黄だけを抜いた「大柴胡湯去大黄」なんて

のも保険漢方薬であります。ウチでは採用してませんが。

 

柴胡剤はまだ重要処方があるので、次回も柴胡剤の中から紹介

したいと思います。あ、次回予想してた人、すんません。あ、

そんな奇特な人いないか。(笑)

2020年5月11日 月曜日

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