数年来の腰痛を主訴にお見えになる方の中には
こう言って半ば諦めている場合があります。昔、腰の
ヘルニアと診断されて、付き合っていくしかないよ、
悪化すれば手術だよ、と刷り込まれているんですね。
これは大きな誤りで、そもそも腰椎椎間板ヘルニア
の主な症状は下肢の痛みしびれです。腰痛ではありま
せん。ヘルニアが圧迫する神経は下肢の知覚や運動
を支配するからです。レントゲンしかなかった時代は、
椎間板の高さが減っているのをヘルニアになって
いるんじゃないか、と推測していたに過ぎません。
MRIが臨床導入されてから、直接的に神経圧迫の
状態を評価できるようになりましたし、またヘルニア
があっても無症状の人が多数いることも判明しました。
なので、真の腰椎椎間板ヘルニアの症例はむしろ
マイナーで、決してメジャーな疾患ではないという
ことです。
MRIが有用なのは間違いないのですが、それによって
過剰な診断治療がなされていることもまた事実。最近
では腰部脊柱管狭窄症が流行り(?)です。例えMRI
で脊柱管が狭くなっていても、その部位の神経症状と
マッチしなければヘルニア同様無症状のものと判断
すべきで、手術は治療の選択肢にならないはずです。
軽はずみな診断は患者さんを無用な思い込みに誘う
行為でもあるので厳に戒めるべきですが、とりあえずの
診断をつけないと保険診療ができないというのも一つの
側面です。そんな実態を理解すると、幾つかの可能性を
残したまま治療を進めるのが正しい方法なのかも知れま
せんね。