院長室

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鉄過剰投与でガンに?!

先日、新聞やニュースで鉄の過剰投与が腎臓癌のリスクを高める

可能性があると報道されました。オーソモレキュラー的診断を

もとに鉄のサプリメントを使うウチとしては看過できない記事です。

患者さんも不安に思っているかも知れませんので、一応解説を。


まず鉄に毒性があるのは間違いありません。保険で扱う鉄剤を服用

して悪心が出た経験がある方もいると思いますが、これは鉄剤を

吸収する際に出る活性酸素のせいです。活性酸素はあらゆる細胞を

傷つけるので、もちろん癌の原因にもなります。

しかし、一方で鉄は我々にとって必須のミネラルでもあります。

ですので、我々の身体には鉄吸収において何とも精巧な防衛システム

が備わっているのです。その防衛システムの主役は小腸です。鉄は

一旦すべて小腸に貯蔵されて必要な分だけ体内に取り入れるように

なっています。さらに、体内に取り入れる際にも専用のタクシーに

乗ってしか運ばれないようになっています。

体内に取り入れられなかった鉄は小腸上皮とともに剥がれ落ちて

便中に排泄されます。鉄剤を飲むと便が黒くなるのはこのためです。

こうやって鉄の毒性を最小限にするような生理的仕組みが備わって

るんですね。


さらに、鉄は大きく無機鉄と有機鉄に分かれます。最終的には同じ鉄に

なりますが、吸収の過程が無機鉄と有機鉄では全く違います。

無機鉄は吸収される際に必ず活性酸素を発生し、かつ吸収効率が悪い

です。保険で扱う鉄剤で悪心が出たのは、それが無機鉄だからです。

対して有機鉄は吸収の過程で活性酸素を出さないので副作用はまず

ありません。そして有機鉄は動物の肉に多く含まれます。これが肉食を

勧める理由です。ほうれん草やひじきに含まれる鉄は無機鉄なので、

鉄の補給には向いていないんですね。


さて、ということで冒頭の実験を見てみるとちょっと「?」な感じです。

詳細な論文を読んだわけではないですが、マウスの腹部に鉄を注入して

行ったとありましたので、消化管を介していない以上防衛システムは無効

のはずです。また使用した鉄が無機鉄か有機鉄かも分かりません。

もし無機鉄を大量に注射したのであれば、短時間にかなりの活性酸素が

発生するので「発癌は当たり前」ということになり、意味のある実験では

ない気がします。


こんなシチュエーションが起こりうるのは、例えば鉄剤の静脈注射や頻回の

輸血です。この場合は小腸を介さないためひどい副作用が出る可能性がある

のはもうお分かりですね。逆に言えば、経口的に摂取する分には鉄過剰に

なる心配はまずありません。それどころか、不足している人の方が圧倒的に

多いのが現実ですので、堂々とガンガン肉食になってください。(^ ^)

2012年9月3日 月曜日

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